銀ピ。銀ピ。

いろは覚書

  • 物販商品(自宅から発送)
    発送までの日数:5日以内
    ¥ 100

2016年1月獅子奮迅にて頒布した獅子三日。 全20頁、コピー本。 ――― 弐、翁  竹取の翁というものありけり。  誰が書いたかわからないと言われているが、それでもこの時代にまで脈々と伝えられているのだから竹取物語はなかなか高尚な話ではないだろうか。  そう審神者に言うと、君は天下五剣ってことを時々忘れさせるねと言われた。親しみやすいということだろうと納得して、せっかくだから審神者の蔵書の中にあった竹取物語を借りた。近代の技術で製本されているそれは、和綴じよりも馴染みがなく開きつづらいような心地だが、より長く持つのだろう。内容は現代の言葉に直されているが、知識などはあるので問題はない。  記憶にある通り、なよ竹のかぐや姫は五人の男から求婚され、最後は月へと帰る。  悲恋というべきなのか、奇譚というべきなのか。  ともあれ竹から生まれる姫の出自を思えば、美しい事は必要なことだろう。人は異端を嫌うものだ、今も昔も。物語に現実的な事を求めるのも野暮であるが。  天下で最も美しい、と言われている自分もそうかもしれない。少々、おっとりとした性格である自覚はあるが、多少は大目に見てもらっている事があるだろう。特に審神者などからは、まあ強いからね、と大雑把に馬小屋の破損を許されたことがある。 「おーい、いるかー」  木戸の向こうからよく知る声がして、はて何か忘れていただろうかと思う。今日は出陣の予定もなければ当番もないはずだったが、時折日付を間違えると気がある。 「いるぞ、入ってくれ」 「おう、邪魔するぜ」 「今日はおぬし、畑当番だったろう。精が出るな、獅子王よ」  黒地に金の模様の入った洋装をした獅子王が、珍しく鵺を連れずにやってきた。仕事を終えてその足で来たのかもしれない。机から獅子王の方へ向き合うと、座布団を引き寄せて寛ぎ始める。  汗をかいているようなので手ぬぐいを渡せば、快活に笑うと受け取った。屈託のない、含みもないその笑い方が俺は心底惚れているのだと実感させられてこそばゆい。可愛い顔をしたこの男が、獣のような顔をして愛することを俺だけが知っているのだ。  愛することは優越感に浸ることだと、人の身を以て知った。 ―――

2016年1月獅子奮迅にて頒布した獅子三日。 全20頁、コピー本。 ――― 弐、翁  竹取の翁というものありけり。  誰が書いたかわからないと言われているが、それでもこの時代にまで脈々と伝えられているのだから竹取物語はなかなか高尚な話ではないだろうか。  そう審神者に言うと、君は天下五剣ってことを時々忘れさせるねと言われた。親しみやすいということだろうと納得して、せっかくだから審神者の蔵書の中にあった竹取物語を借りた。近代の技術で製本されているそれは、和綴じよりも馴染みがなく開きつづらいような心地だが、より長く持つのだろう。内容は現代の言葉に直されているが、知識などはあるので問題はない。  記憶にある通り、なよ竹のかぐや姫は五人の男から求婚され、最後は月へと帰る。  悲恋というべきなのか、奇譚というべきなのか。  ともあれ竹から生まれる姫の出自を思えば、美しい事は必要なことだろう。人は異端を嫌うものだ、今も昔も。物語に現実的な事を求めるのも野暮であるが。  天下で最も美しい、と言われている自分もそうかもしれない。少々、おっとりとした性格である自覚はあるが、多少は大目に見てもらっている事があるだろう。特に審神者などからは、まあ強いからね、と大雑把に馬小屋の破損を許されたことがある。 「おーい、いるかー」  木戸の向こうからよく知る声がして、はて何か忘れていただろうかと思う。今日は出陣の予定もなければ当番もないはずだったが、時折日付を間違えると気がある。 「いるぞ、入ってくれ」 「おう、邪魔するぜ」 「今日はおぬし、畑当番だったろう。精が出るな、獅子王よ」  黒地に金の模様の入った洋装をした獅子王が、珍しく鵺を連れずにやってきた。仕事を終えてその足で来たのかもしれない。机から獅子王の方へ向き合うと、座布団を引き寄せて寛ぎ始める。  汗をかいているようなので手ぬぐいを渡せば、快活に笑うと受け取った。屈託のない、含みもないその笑い方が俺は心底惚れているのだと実感させられてこそばゆい。可愛い顔をしたこの男が、獣のような顔をして愛することを俺だけが知っているのだ。  愛することは優越感に浸ることだと、人の身を以て知った。 ―――